田舎中学三文オペラ  第4幕 生徒だって色々              サイトの歩き方」も参照してください

 校舎は木造二階建て、二棟が渡り廊下で繋がり、体育館や特別教室が、それぞれ校舎を挟み東西に建っている。築年は知らないが、教室廊下階段の木材は、木目沿いにえぐり取られて大波を打ち、手摺りは刺の集積場、窓の開け締めにも相当の腕力が必要で、実感としてはかなりの時代物。一年生は両棟の一階西半分、二年が二階で、三年生の教室は主に一階東半分にあり、今思えば、職員室に最も近い部分に配置されていた。

 教師もただの人、玉石混合は人の常、馬鹿も居れば嘘つきも居る。この深淵な真理にやっと辿り付きかけていた転校生は、自分の事は棚に上げ、たまたま出合った二、三の教師の実像の一端から、大人世界地球全般を支配するであろう原理の演繹に忙しかった。

  『嘘をつく教師は正しいか、正しくない』

  『責任逃れをする教師は尊敬に値するか、値しない』

 『事実を明らかにする能力を全ての教師は持っているか、持っていない』

 『教師は常に正しいか、正しくない』

 『教師の能力は総体に劣っていないか、やや劣る者が山ほどいる』

 その様な教師に教えられている事自体、もう悲劇。被害者が誰であるのかは一目瞭然。こちらは何も悪くない。郵便ポストが赤いのも、消防自動車が赤いのも、夕焼け小焼けが赤いのも、みんな教師が悪いから、などと馬鹿な台詞こそ口にしなかったものの、自己を被害者の立場に置いて、現実逃避の言い訳に使い、悪徳教師の虚像を膨れ上がらせたのは確か。ただ最後の救いは、その考えを人間すべてに普遍しなかったこと。全部が全部、責任転嫁したならば、自分自身も唾棄すべき教師連中と同類になる。はたと思い当たり、かろうじて最後の処で踏み留まった(下の画像はWEBから借用したものです)。

木造校舎   PR

 他人はどうであれ、自己の内側に在る様々な思い、疑問、不信の元となっている事柄を一つずつ、根気よく、日々真面目に検証することが、より確かな自我像を得ることに繋がり、ひいては偏りのない価値観に、しっかりした肉付けを施す結果にもなるのだと言う考え方に思い至るまでには、かなりの量の時間が浪費され続けた。

 理屈は抜きにして、勉強するよりは遊ぶ方が無論楽しい。良ちゃんは、理屈からは縁遠い性格で、とにかく学校内外で楽しく遊ぶことに生き甲斐を見つけていた。不良にも、硬軟の派閥があり、陰陽の区分が厳にある。

 三学期も半ばになると進級への喜びが徐々に大きく膨らみ、クラス分けも気掛かり。各グループの頭目、勢力争いなども一巡、二巡して、揺るぎない、眼には見えない絶妙な力学模様が生徒間に描かれる。合従連衝は世の習い、長い物には巻かれろ、寄らば大樹の陰が当り前の、この世界。後ろ盾の無い者に、才覚を思う存分発揮出来る機会は、そうそう巡ってこないもの。良ちゃんは、年上の兄弟が、既に数年前、卒業生となっていたため上級生への影響力に乏しく、出身小学校時代からの数少ない友達の他、余り地盤の拡大に熱心ではなく、気のおけない者同志の付き合いを優先させ満足している風情。

 所謂、町の小学校から来た生徒には、結構口の達者な連中も多く、二学期の頃には見かけの勢いだけでクラスを仕切ろうとする属もいたのだが、実力に物を言わせる本物が頭角を現すと共に次々姿を消し、学年でおおまか三つ位の塊に集約された。実力一本の硬派、実力第二格好第一の軟派、無暗に張り切る武闘派の内、良ちゃんが所属するのは硬派なのだが、彼には独特の明るさがあり、他の陰気さを引きずる領袖とは一線を画していた。

おしん」と元祖ボデコン(入力ミスではありません)

 「見るからに根っからの悪ゆうタイプ、悪がっていきってる奴、弱い者だけに難癖つける奴、それから暗い奴とは膚が合わんかったし、女の尻ばかり追っかけてる奴も嫌いやった。   最悪は虎の威を借る何とやら」

 「やっぱり縄張り争いみたいな事もあったんやろ」

 「どのグループにしても、自分たちに直接関係ないことには余り首を突っ込んだりせえへん。利害が食い違うたり、存立基盤が侵されそうになると、火花も散る訳や。 棲み分けは、はっきりしてたな」

 一緒の教室に入れておくと碌なことがない、騒ぎの基との判断で良ちゃんとは離れ離れ。教室も東西の端と端。二年の担任、京都先生は若い独身の張りきりボーイ。受け持ち教科は数学だったと思う。同級生は皆おとなしく優等生でも劣等生でもない中庸の精神の持ち主が多く、鮮烈な印象に残る者は稀。その中で異彩を放っていたのが飲み家『新淀川』の娘・新子。

 田舎の女の子は、おしなべて無口、関心があっても知らない素振り、男の子に興味はあるのだが敢えて無関心を装う。関西で言う、様子しいの典型と考えて良いのだが、この子だけは違った。初め、単なるおしゃべり娘、恥じらいを知らぬ未来の井戸端会議議長だと独り合点していたのだが、話ぶりを聞いてみると、言い分は尤もな事が多く、正論を吐く。 また、新子の面目躍如たる所以は、男子生徒何するものぞ、悪たれ坊主屁の河童、不良と言えども我行かん、の精神を日々、事あるごとに実践する処にあり、従って、そのクチ故に泣かされる事しばしば。ただ、近所の悪の一人平田を、半泣きになりながらも、最後まで彼の非を攻撃し続け、とうとうやり込めた敢闘精神は実に見事。以後、手を出しかける者があった場合には、しなくても良い無言のガード役を買って出た。

 むこうも、まさか恩に着た訳でもないだろうが、彼女の短く広いアンテナにひっかかる情報で、関係のありそうな主題については、こまめに教えてくれたし、神戸時代の女生徒達と余り変わらない心安さで気軽に接してくれた。馴れ馴れしくもなく、他人行儀でもない、普段着のまま話の出来る女友達は、新子が最初で最後だった。よそ者に、又一人味方が出来た。

 「ちいちゃい時から水商売やってる親のそばで、男が酒飲んで喚いたり騒いだり、卑わいなやり取りするのを見聞きしてる訳や。最初は、そんな生活してるから、男なんて大したことない助平な阿呆ばっかり、そんな思い上がりが生んだ、うすっぺらいはねかえりや位に思てたのが、結構筋金入りのしっかり者やった。大きな男子生徒を向こうに回して捲し立てるん見てたら、ほんま面白かったわ」 「職業に貴賎無し言うけど、理想と現実の落差はすごいからなぁ」

 「強がりの部分もあったんやと思うけど、あんまりずけずけ物言うもんやから、大抵の奴は早々に降参する。ちょっとは口の立つ者でも結構てこずってたな。なんせ、彼女の言い分に理がある、それを黙らせるには実力行使しか無い訳や」

 勉強が飛び抜けて出来る訳でもなく、器量も、もう一つ。一部の人気は得ているが、反発する生徒も居た。代表格が名前の同じ進子。親父が役人、母親も公務員、その三人娘の末っ子で、性格不健康。性悪女の典型と決めつけては可愛そうだが、とにかく頭の中身が乏しい割に、金品を餌に取り巻きを作るコツを心得ている。小金持ちの馬鹿娘対、飲み屋の孝行娘のタイトルで、一つや二つ台本が書ける場面に何度か出くわした。

 「こっちの進子もかなりのもんやった。一年の頃から知ってたけど、頭の中は真空に近いくせに、こと外見についてはうるさかった。

 まあ、盛りのついた雌猫よろしく、男の気ーひく算段ばっかりしとったな」

 「又、えらい嫌われたもんやなあ」

 田舎の冬は雪とみぞれ、灰白色の不遜な空は、校舎の屋根に届きそうな程の高さまで降りてくる。陽の光から見はなされたとしか思えない、重く暗い時間が続く。八雲立つ、の枕言葉は伊達ではない。

 遠くから自転車で通う者、バスで通う生徒もあり様々。とにかく寒い。母親から聞いてはいたが、雪が地を這い足元から身体に巻き付く様に襲いかかり、耳も鼻も氷り付くまで信じていなかった。

 そんな気候を配慮してあるのか、女生徒も冬はズボン着用。郷に入っては郷に従えと言うものの、女子のズボン姿は珍しく、じろじろ観察しては皆に嫌がられた。雌猫進子の思いついた作戦は、視覚中枢を自慢(?)の持ち物で刺激することにより、獲物の大脳皮質を短時間で痺れさせ、くらくらして訳の分からなくなっている魚を釣り上げる、原始的で効果抜群の肉弾戦法。

究極のパフォーマンス、制服大改造

 生徒手帳に明記された服装規定をはなから無視、違法改造の先駆者となった進子。元々上着の丈が短めのセーラー服、その下に穿いたズホンは、下半身に完全密着、お尻の湾曲アンド陥没部分にとどまらず、最も微妙な丘陵地帯の怪しげで意味慎重な動きまで、パノラマ画面よろしくリアルに写し出す。これには流石の良ちゃんも脱帽の体で『女のやることはえげつない』と云う意味の言葉を真顔で呟いた。

 蠱惑作戦は壷にはまり大成功。超現実的芸術作品に勝るとも劣らないとの風評は階下の三年男子世界をも瞬く間に席巻、見物客が廊下踊り場に殺到した。余りの快挙、絶大なディスプレイ効果に酔い痴れていた件の君も、そのリアルさ故に元々低い彼女の品格を一段二段おとしめることを気遣った友人の忠告と、男子生徒の一部からも恐れられていた三年女子の大立て者、姐ことバレー部主将の某女からの、迫力ある助言を受け入れたらしく、早々、標準型の物に取り替えたのだが、一度知った主役の快感忘れがたく、以後、手を替え品を替え表現力の限界に挑戦していた。

 「おるんやなぁ、どこにでも、この手合いが、一人や二人」

 「おつむの中味は量も知れてるけど、その殆どを異性対策向けに使いよる。自分の容姿に自信があったんか、なかったんか…、金は持ってるからまあ派手な子やった。いつも何か珍しいもん買うては自慢しとったな」

 「親がおるやろ、注意せえへんのかいな。そんな格好してたら」

 「女の子やし、自分で裁縫したんとちゃうか、親のおらん間に。それに親の勤めてたのは遠くの町やから朝も早かったやろうから、ほんまに知らんかったんかも分からん。家で制服着たまま生活してる訳やないしね」

 「せっかく目の保養になる思うてた男子生徒は、がっかりしたやろな」

 「ちょっと、あれはひど過ぎた。京都先生も呆れ顔で苦笑いしてはった」(続く)

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