正しい?スイカの捨て方                                                 サイトの歩き方」も参照してください

温厚な伯母は、滅多なことで怒声をあげることも無かったし、面と向かい叱られたということも無かったのだが、寝ぼけ眼をこすりこすり遅い朝ご飯を頂こうと台所に出で行くと、珍しく、伯母がとても厳しい表情で、こちらを見ていた。何事か、と怪訝な顔付きで見返す甥に向け、彼女は一言だけ、窘める口調で話しかけた。

  「夜、夜中、裏の川にモノを無暗に投げ込まないように。どこで誰が、聞き咎めるかもしれないのだから」

夏休み、いつもの如く、従兄弟の学友が離れの後座敷に集り、たわいない話題で盛り上がっていた。夏である、お酒も少しは入っている。お腹も空いた。誰言うと無く、スイカが食べたい、スイカにしよう、ということになったのだが、生憎、従兄弟の家では、最近スイカを栽培していない。

  「なんだ、お前の処ではスイカも作っていないのか、百姓のくせに」

と言ったかどうかは定かではないが、仲間の一人がニヤリと笑い、

  「スイカなら、いい処を知っている」

と言う。勿論、人様の畑に決まっていた。50ccのバイク3台に分乗した悪童六名は、月夜の土手道を無灯で走りぬけ、幅わずか60センチほどのわき道に乗り入れた。一面のスイカ畑である。そのはずである、が、なにしろ遠くは良く見えない。

  これは、実に美味そうなスイカです。

満面に笑みをたたえた例の発起人が、はやる仲間を押し留めて、小声で講釈を垂れた。

  「皆、いいか、スイカの熟れ具合は、底を叩いてみれば分かる。実がしっかりと熟れたものは良い音がするものだ」

  「そんなことは皆知っている、早くしないと、誰かがくるかもしれんぞ」

  「それもそうだ、では、各チーム2個を目標に、いざ、出発」

月明かりというものは案外、明るいもので、遠眼には見え辛くても、近づけば人の顔は判別できる。皆、後ろめたさを感じながらのスイカ作戦である。畑に居た時間は、ものの数分だっただろう。運転手役の三人はわき道、農道をアクセル全開でひた走る。勿論、その道は舗装などしてある訳が無い。後部座席に乗った三人が両腕に抱えたスイカを落とさずに帰還できたのは幸いであった。裏の土手に陣取り、今宵の獲物を頂くことになったのだが、皆、熟れ具合なぞ確かめている暇がなかったことが、直に判明、一つを除いて、後は食べられた代物ではなかった。

くやしさ半分、てれ半分、スイカ泥棒たちは己の犯罪の証拠隠滅を図ろうと、物的証拠となる未完のスイカを、立て続けに小川目掛けて放り込んだ。直径が3,40センチにもなろうかと言うスイカたちは、完熟を前に空しく悪童たちの手によって闇に葬り去られる無念さを、水中に落下し沈没する音響に託した。「ドボン」「ドボン」という音は気味の悪いほど大きく木霊して、小悪党たちの肝をつぶしかけた。伯母は、その物音で息子、甥そして来客たちが真夜中に何をしているのか察知したのである。その朝、食べ物の味が全くしなかったことを覚えている。

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