トランペットの正しい?直し方                          サイトの歩き方」も参照してください。

トランペットに限らず金管楽器一般の構造については、この「お作法教室」の第一回目で詳しく説明しましたが、要は『金属の板を筒状に薄く延ばした先に歌口(マウスピース)という部品を取り付け』その歌口の中で唇が振動することによって楽器としての機能を果たしている訳です。だから、幾ら肺活量のある人でも、無闇に息を吹き込むだけでは何の音も出ない理屈です。金属を薄く延ばしていますから、当然「つなぎ目」もあるわけで、私たちが使っていた初心者用のものなどは、それが良く見えるくらいでした。

閑話休題。山陰の真冬は、一言で言って『寒い』のです。温暖な地域で暮している方には想像も出来ないでしょうが、雪が風と仲良く連れ立ってやってきた時、雪は引力の法則にも逆らう魔法を身に付け、地面から空に向けて体を捻りながら舞い上がり、無力な人形の体中に冷酷な白の威力を吹きつけ、叩きつけ、無分別な人間が露出している肌は瞬時に体温を失い、かじかみ、指などは動きまで緩慢になるのです。何が言いたいのか、と言えば、兎にも角にも、寒さの中でラッパを吹くのは困難だ、と訴えている訳です。

或る寒い寒い日の午後、いつもの通り用務員さんが寝泊りする鍵のかかる小部屋から各々がトランペットなどを持ち出し、毎日の日課となっている音だしの練習を始めるため、何人かずつの部員が各パートに別れ、一塊になって雑談していたのですが、そのうちの一人が何かの拍子に楽器を逆様に教室の床に落としてしまったのです。恐らく、手がかじかんでいて、しっかり持っていたつもりの指が、自分の意思に反して緩んでいたのかも知れません。何度も書いて恐縮ですが、ラッパの尖端、つまり吹く側の筒先には、音源となる漏斗のような形をした金属性のマウスピース(歌口・下画像)が差し込まれていました。冬場など、歌口が冷え切った状態になっている時には、ズボンのポケットに突っ込んだ手のひらの中で歌口を握り締め、何分か暖めるのが通常の準備作業なのですが、その時は、運悪く、歌口も着けたまま、U字型になっている管の中央部あたりを、指先にぶらさげるように持っていたものですから、トランペットは音が出る朝顔の方ではなく、歌口を垂直に床に向けた格好で引力の法則に従ったのです。

トランペットを実際に持ったことのある方は少ないと思いますが、あれで、結構ずっしりとした重さがあります。その重みは落下の法則(?)によって物理的なエネルギーに変換され、直径3センチメートルに満たない歌口の表面から、ラッパの筒内部へと導かれ、しかるべき結果をもたらしたのでした。そうです、つまり、きちきちの状態でラッパの筒に差し込まれていた歌口を、金槌で叩いたのと同じ物理現象が生じた訳ですね。この貴重な、と言うか珍しい場面に出くわした部員たちは、一瞬、息をのみ、練習場を静寂が支配したのですが、直に大騒ぎとなったことは言うまでもありません。

修理に必要な工具はペンチ一つでOK?

「歌口をお湯に浸けたらどうか?」「どちらも金属なのだから、一緒に膨張するから意味がない」「陸上部の誰それは右手の握力が60以上もあるらしいから、あいつを呼んでこようか」「それより先に、錦織先生に知らせる方が先だろう」「まて、知らせるのは何時でも出来る。まず、当面の問題は、こいつを引っこ抜くことだろう」などなど、いやはや蜂の巣をつついた、と言う表現を絵に描いたような騒ぎの中で、物理法則の正しさを証明した本人が選んだ方法は実に「正攻法」とも言うべき内容のものでした。目には目を、力には力を、という大変シンプルで分かりやすい、しかも効果が期待されるそのやり方は…。

 これもトランペット(朝顔の一種です)  マウスピース(歌口)

「おい、誰か、用務員さんの部屋に行って、ペンチを借りてきてくれ」下級生の一人が直ちに伝令となって件の部屋に行き、復旧作業に必要な道具を借り出し、興味深深に凝視する沢山の視線に多少戸惑い緊張しながらも、今更引っ込みがつかなくなった当人は、おもむろにペンチで歌口の漏斗状になっている下側の辺りを挟み込み、伝令役の下級生にラッパ本体を確保させておいて、力任せに回転エネルギーを放射したのです。

だから、管理人の歌口には、その時、ペンチが本来の働きを確かに行った証として、深い抉り跡が残り、強い戒めを全部員に示すこととなったのでした。終り。

     
     
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